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令和5年度論文式試験 特許問題Ⅰの講評

論文式試験お疲れ様でした!士業猫です!

論文試験はとんでもない量の問題を1日で解き続けることになるので、本当に大変だったと思います…お疲れさまでした…。

さて、とはいえ次に向けて動き出さなければいけないわけですが…

実際、今年の難易度はどれくらいだったのか…?
どれくらい記載できていれば他の受験生と差がつかないのか…?

気になってしまう方も多いと思います(私もそうでしたので気持ちはよくわかります…)。

そこで!今回は受験指導経験のある士業猫が令和5年度の出題傾向を大解剖…します!
あくまで主観のまじった感想になりますが、こちら参考にしてみてくださいね!

それではまずは、論文試験最初の難関である特許法【問題Ⅰ】から!

 特許法【問題Ⅰ】

問題数は設問1(1)(2)(3)+設問2という4問構成。例年通りの出題数といったところ。

 ただし、各設問で2~3の項目が問われているため、現場では問題数が多いと感じた受験生も多かったのでは。
 設問1は、特許管理人という試験勉強であまり掘り下げないところを狙った受験生としては困る出題でしたね…。
 ただ、設問1の問題の出題構成は非常にまとまりがよく、予備校で問題作成経験のある士業猫も唸るセンスを感じました。
 一方で、設問2は「あららん…?」と首を傾げるようなアッサリ系な出題…。
 設問1の作成で力を使い果たしてしまったのか…!?

 それでは、具体的な内容を見ていきましょう!

 令和5年度の問題は、以下の特許庁のホームページからご参照いただけます。
 https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/shiken-mondai/2023ronbun-hissu.html

【設問1(1)イ】難易度:易

 出題者からのまずはお手並み拝見のジャブ…のはずが、受講生のみぞおちにめり込んでしまった可能性のある問題。

 本問は、日本国の弁理士乙が「在外者」であることが解答のポイント。
 ただ、論文試験開始の一問目が特許管理人であることに動揺している受験生にとっては、頭が真っ白になってしまった可能性あり。

 これならむしろ最初から対策経験の多い184条の11から聞いてくれよ~!…と心の中で叫んだ受験生も多かったはず。私も叫ぶ。たぶん。

 でも8条を見ながら検討すれば正解にはたどり着けるはずなので、ここは落としたくないところ。

【設問1(1)ロ】難易度:易

 こちらは安心・頻出の国内移行手続きに関する出題。受験生の心のオアシス。ここで焦る心を落ち着けたいですね。

 在外者である甲の手続きについての時期的制限について問われるのは初めてかもしれませんが、特許管理人がテーマの出題であることを踏まえれば、184条の11第1項にたどり着けたはず。「国内処理基準時まで」としっかり記載しておきたいところです。

 国内処理基準時の内容まで記載するか悩んだ方もいたかと思いますが、国内移行手続きも問われていることを考えると、そこまで記載しなくても他の受験生と差はつかないように思います。

 国内移行手続きについては、少なくとも「3つ」と誘導があるので、お決まり三人衆①翻訳文の提出(184条の4第1項)②国内書面の提出(184条の5第1項)③手数料の納付(195条2項)を記載できればOK。

 「少なくとも」とあるので、出願審査請求(184条の17)など、3つ以上記載しても題意把握ミスとはならないでしょう。ただ「3つ」との示唆もあるので、それ以上記載しても他の受験生と大きな差をつけられるような加点にはならないと思います。

 他の受験生が確実に記載してくる問題。ここも落とせません!

【設問1(2)】難易度:易

 設問1(1)で184条の11にたどり着けているので、ほとんど条文を写しているだけで決着する問題。

 ①管理人の選任の届出をしなかった場合→その旨通知(184条の11第3項)→2月以内に届出の手続き(184条の11第4項、施規38条の6の2第2項)→効果:満了する時に届出擬制(184条の11第7項)

 ②手続きしなかった場合→効果:出願の取下擬制(184条の11第5項)

 上記①②を漏れなく記載したいです。なお、届出時期の例外(184条の11第6項)については、問題文中で「出願人の故意の有無が問われる手続…は存在しないものとする」とのただし書きがあるので、記載は題意把握ミスとなります。ただ、記載してしまっても、合否に大きな影響を与えるような失点にはならないように思います。

 ミスできない問題が続きますが、この問題も落とせません!

【設問1(3)】難易度:難

 設問1のフィニッシュを飾る激ムズ問題。これを出題すべくこの問題を作成したのか、特許管理人で難問を作成するにはこれしかなかったのか、どっちなんだい!って問題。

 条文の知識が問われる、どちらかというと短答試験に近い出題。審理終結通知に引っ張られ、156条周辺を探すと一生見つからない地獄…。これが受験生に課せられた7つの大罪なのか…。

 条文を探せ!無益な条文狩りの結末は、雑則192条にひっそりと…。見つからんわ!

 これは短答試験40点代後半レベルの知識がないと難しい内容ですね…。さらっと探して見つからないときはこの問題で立ち止まらず、まずは特許法の全ての構成を終えてから時間の許す限り探す、という戦略をとるしかないです。

 これは難しい…。ただ論文試験は相対評価なので、この設問ができなくても合否において大きな差にはならないと思います。

【設問2】難易度:易

 基本的な事項を問う良問であると思いますが、なんだか論文答練で国際出願関連を最初に出題するときの感じを思い出させる…。

 本当は国際出願に関する出題ってだけで難しいのだけど、近年は国際出願は当たり前のように出題されるから今回の内容だと簡単に感じてしまう。

 感覚がマヒしているのかも…。10年前の受験生が解いたら腰抜かすでの(知財翁)…。

 テーマとしては、自己指定と判断基準時ですね。事例自体は非常にシンプルなので、問われていることに漏れなく正確に答えることが要求されます。

 ポイントは、①Bに適用される優先権の種類、②イ、ロの判断基準時、③イ、ロの29条1項3号の適用になります。

 ①では、日本指定の国際出願Bは、国内出願Aに基づく優先権を主張しているため自己指定です(PCT8条(2)(b))。そのため、優先権は、国内優先権として検討する必要があります(41条)。

 ここで悩ましいのは、問題文が「Bに適用される優先権について、…」とのみ記載されており、優先権の種類だけでなく、国内優先権の要件まで検討する必要があるのか、というところです。

 ここは難しいですが、優先権を「適法」に主張したという示唆が問題文中にないところと、要件を満たすか否かで判断基準時が変わってくることを考えると、検討する必要があると判断すべきといえます。
(仮専用実施権者である乙の承諾を得ていないところで判断基準時が変化するかを加点のポイントにしているところからも、要件の検討が要求されていることを読み取ることができます)

 184条の15で41条1項但書が不適用となっていることを知らないと、それだけで②③まで不正解になってしまう非常に怖い問題ではあります…短期合格者泣かせの問題ですね…。

 続く②では、国内優先権の効果により、先の出願Aの当初明細書に記載されているイのみが先の出願時で29条1項3号を判断することを記載できればOKです。

 そして③では、イ、ロそれぞれの29条1項3号の該当性を検討しましょう。イは、先の出願Aが判断基準時となるため、29条1項3号には該当せず、出願Bが判断基準時となるロのみが29条1項3号に該当することになります(49条2号)。

 イ、ロそれぞれについて問われているので、該当するロだけでなく、イが該当しない点まで言及しておきたいですね。また、拒絶理由が29条1項3号のみと…本試にしてはショボいので…インターネットでの提示が電気通信回線を通じて公衆に利用可能になっているなど、丁寧なあてはめが必要になるかと思います。

まとめ

 以上、特許法【問題Ⅰ】でした!

 全体としては、国際出願の知識さえあれば拍子抜けするくらい簡単な問題でしたが…国際出願の対策が十分でない場合には知らないと解けない知識ばかりで撃沈…というように二極化する問題だったと思います…。う~ん、短期合格者泣かせな…。

 それでは次回は【問題Ⅱ】を講評していきます!また見てね!士業猫でした!